2013年7月9日火曜日

【書籍】リアル・アノニマスデザイン: ネットワーク時代の建築・デザイン・メディア


最近、生活をする事にはまっている。
この言葉は、最近読んで気になったこちらのブログの記事からお借りした言葉ですが、一人暮らしを始めてから一年間「生活をする」こととはどういう事か、という事を頭の片隅に置きながら暮らしてきました。毎日三食料理をし、掃除、洗濯をする。勉強時間を作ったり、地元の道場に通って合気道を習ったり、体と心の健康に気をかけつつ、日々の暮らしをするのに必要な事はどんなこと、どんなものかを見つめ直そうとしてきました。


 ひとえに「生活をする」といっても様々な形があると思いますし、当然ながら”27歳の社会人男性が毎日三食料理をすること”は一般的なことではないと思います。外食は便利ですし、外で食べたくなったときは食べたりもします。おいしいものを手軽に食べられるというのはとてもすばらしいことで、それを利用することがいいことか、悪いことかというのは議論の余地もないでしょう。


 それでもあえて、自分の手で生活をするという選択をするのは、「節約したい」というよくある理由も含めて、あえて便利なものを必要最低限に抑えて「生活をする」ことによって、
“「生活する」ということがどういう事なのか”
というのを改めて見直したいという所にあると思っています。


 さて、日々料理をする中で改めて実感するのは、それがとても創造的なことだ、ということです。料理をすること自体、とても創造的な作業です。それが、“日々”になることで、その創造性がぐっとあがるような気がしています。

・今日、肉じゃがを食べたいと思ったから、肉じゃがを作る
・今、冷蔵庫にあるもので何かおいしいものを
・今日はちょっと頑張って特別な料理を作りたい
・風邪を引いてしまったので胃もたれしないものを手軽に

即興的な再現力であったり、リソースから逆算的に考えたりする。自分の感性や想像力、状況にあわせて手を動かすことでモノを生み出していくことができます。そして、自分自身を含めて、評価をしてくれる人が必ずいます。評価がある事によって、生み出すものが日々磨かれたりするのです。

それらを支えてくれるのは、材料であったり調理器具であったり、食器であったりします。そして、それこそが、私の感じている「アノニマスデザイン」でもあります。

 アノニマスデザインはデザイナーの柳宗理の提唱したものです。アノニマス、というのは匿名性という意味があるのですが、今回読んだ『リアル・アノニマスデザイン: ネットワーク時代の建築・デザイン・メディア』では、このアノニマスを巡って様々なデザイナーや建築家などが感じたことを書いていました。そして、それを通じて私たちの暮らす“社会”を見つめ直そうという試みがされていると感じました。

 私の感じているアノニマスデザインは、料理や掃除などの生活を支えるていると言ったような、モノの先にあるものが創造的にデザインされているものだと思っています。そしてそれを支えているのはモノの“用”に支えられた形や姿だと思っています。
『リアル・アノニマスデザイン: ネットワーク時代の建築・デザイン・メディア』の中では、織咲誠さんの ”関係性をつなぎ直す、統合の仕事” や、西村浩さんの ”土木と建築の間” に近いものではないかと思います。

 さて、この書籍では、作家性と非作家性に焦点を当てて、モノのデザイン自体の匿名性に焦点を当てた「アノニマスデザイン」があれば、様々な作家の知識や技術の集積としてつくられたものとしての「アノニマスデザイン」など様々なものがありました。すでにデザイナーや建築家として活躍し作家性を存分に発揮している方々が、どうやって「アノニマスデザイン」をとらえていくか、という視点を出発点にしているように感じました。

 強い個性のある文章の中から、「アノニマスデザイン」を考察するということ、これはある意味では矛盾をはらんでいるような気もします。そう感じたのは、この書籍を通して読んで「アノニマスなデザイン」として書かれた文章であると感じたものが無かったからです。それを意識してのことであるのか、あとがきで山崎泰寛さんの書かれている文章の中で、こう語っています。
本書が、松川昌平さんが言うポリオニマスなデザインの姿を示せていたとしたらとても嬉しいし、だとすれば著者の皆さんの力に他ならない。 p253
もしかしたら、このポリオニマスなデザインと「アノニマスデザイン」の関係こそのが本当の所のこの書籍の言いたい所だったではないかと思っています。私たちの暮らしているこの社会は、たくさんの人々の個々の生活によってつくられたポリオニマスなデザインに支えられています。そして、私の感じた「アノニマスデザイン」もまた、このポリオニマスなデザインの中で、おいしいであったり、使いやすいであったりする中で変化し、だんだんとその作家性が薄れていって、育まれた結果なのかもしれません。そしてあえてそれを再発見する事こそが「アノニマスデザイン」として提唱されたもののような気がします。

ポリオニマスな重なりによって生み出された「アノニマスデザイン」は東浩樹さんによると
それってとっても工学的なことで、そこまで行くともう「考えても意味のない」。 p243
という事だそうです。でも、何となくではありますが、それを土台にしたもっと先のものの中に、遥かに創造的な世界が広がっているような気がするのです。

※ポリオニマス
onymous(顕名性)に対して、anonymous(匿名性) 、polyonymous(多名性)
詳しくは『リアル・アノニマスデザイン: ネットワーク時代の建築・デザイン・メディア』 p195 ポリオニマス・デザイン(松川昌平)を参照