2012年2月19日日曜日

【書籍】旅する民俗学

本当に宮本常一さんの著書にははっとさせられる事が多いです。あんまりひとりの人の考え方に傾倒するのはよくないとも思いますし、そもそも彼の文章で話に出てきている人たちは、自分とはまた違う生き方を選んでいる人たちなんだという事をちゃんと意識しなくてはいけない。それでも、奥底にある人間の生きるエネルギーというものは確実にあって、そのエネルギーが何かこうまっすぐな目を通して感じさせてくれるようなそんな視点を与えてくれるのです。

「旅の民俗学 (河出書房新社)」という本を読み終わりました。対話形式で様々な著者と話しながら、旅と人と歴史の事についての話が展開されています。いつも彼の本で見られるのは、時代を関係なく映し出される人間そのものの生き方のように思えますが、本著ではそれだけにとどまらず、そこから歴史の流れや、昔の人々の生き様など、通常の歴史書では決して語られないような、歴史が語られているように思えます。正確な資料を検証した内容という訳ではないですが、彼の目を通してみた住民、そしてさらに、その人々の目を通してみた歴史というのが、彼と対話者の口からストンと落とされるように伝わってくるようなきがします。

あたりまえじゃないかい。海に境なんてありゃせんもの、どこからだってかえってくられるさ(笑)

これは、日露戦争の時にウラジオストック沖でロシア軍艦に捕まった漁師が、たまたま船につないであったボートで逃げ出した、という話をして「あんた、そんなことよくできたな。」と宮本さんが聞いたときの返答だそうです。とても印象に残った内容でした。ここで描こうとしてもどうにもこうにも薄っぺらくなってしまうので、これ以上は書きませんが、ともかくそれは疑いなく体験した人の口から直接はなされた事だということがとても意味を持ってくるものだと思います。

読んでみると、とにかく目から鱗です。