2012年11月27日火曜日

【書籍】ワークショップ 人間生活工学(第一巻)

たくさんの人に、自分のつくった物を使って欲しいと考えたとき、まずはたくさんの人に使ってみたいと思ってもらうことが大切です。それは、広告を通じてたくさんの人に知ってもらうということでも実現できますし、それを触ってみたい、使ってみたいという魅力的に感じるようなものをつくることでも実現できます。

しかし、それがどんなに使ってみたいと思えるものでも、もし一度しか使われないというのなら、それは本当にたくさんの人に使ってもらえる”いいもの”と言えるのでしょうか。一度使って終ってしまうようなものではもったいないでしょう。本質的にたくさんの人が使い続けていたいと感じるものこそが、ある目的のためには欠くことのできないものこそが、きっと本当に”いいもの”と言えるのではないかと思います。そして、その積み重ねこそが、その”いいもの”をさらにたくさんの人に使ってもらえる結果を生んでいくのではないかと思っています。

社団法人 人間生活工学研究センター編の「ワークショップ 人間生活工学」
は、そんなよりいいモノづくりのために編纂された本だそうです。まだ第一巻の”人にやさしいものづくりのための方法論”しか読んでいないのですが、この一冊でもとても有用で内容のぎっしり詰まった良い本だと思いました。

ユーザビリティや最近よく耳にするUXという言葉でかたられているような体験のデザインに関する話はもちろんのこと、人にやさしいものづくりのためにどのようなプロセスを踏んだら良いのか、それに対してどのような組織づくりを考えたら良いのかということも書かれていました。

このような本の多くは、その方法論を自分の環境にまるっきり当てはめてしまうということによって、とても間違えが起こりやすいものではあります。ただ、実践的な有用性を目的に書かれている文章でもあるので、そういった面にも気を使われているのが伝わってきたのがとても好印象でした。

ここで、定義されている人にやさしいものづくりとは、

人:stake  holderは誰か? 何をするか、したいのか?stake holder とは, ユーザはもとより, 購買者, 販売や維持管理, 廃棄に関わる人など, 当該製品に関わりをもつすべての人のことである.
やさしい:人間親和性・生活親和性の具体的品質特性は何か?
もの:ユーザ(stake holder)の広がりからみた製品の性格はどのようなものか?
つくり:どのような開発プロセスに(例:人間中心設計過程など)に, どの程度, 厳密に従ったものか?

(p188 一部略)



と書かれています。この定義に対して、どのような考え方があるのか、どのような調査をして分析をしていくか、どのような基準を参考にすることができるのか、どのように実践をおこなっていくのか、ということが丁寧に書かれていました。

生活の研究、製品の美しさ、開発プロセス、安全性、ユーザビリティ、ユニバーサルデザインなど、それらをどのように実践に移していけばいいのかということが、これまで研究され、実践されて蓄積されてきた知識をもとにして丁寧に書かれていました。

ISOで定義されている規格、法律で定められている安全性など、企業の組織やコストなどをふまえた上で書かれているので、実践的なものづくりのをしているひとにとっても、研究としてものづくりを学んでいる人にとっても、とてもに参考になる本ではないかと思います。